日産アークでは、従来から物質内部の構造や空孔、フィラーなどの分布を三次元画像として観察し、さらにその画像から定量データを得る方法の確立に取り組んでいます。例えば、ナノ領域を対象とした透過電子顕微鏡像の三次元画像化 (3D-TEM) や、mm~cm領域を対象とした射出成型品断面の樹脂流れの三次元画像化 (3D/N-ARC法) などを開発してきました。(図1参照)
ここでは、デュアルビーム装置 (FIB/SEM複合装置) を用い、連続的に得られる走査電子顕微鏡像 (SEM像) から数十nm~μmレベルの三次元像を再構築し、さらに画像処理により寸法や体積などの任意のパラメータを抽出する走査電子顕微鏡像の三次元画像化 (3D-SEM) を紹介します。この画像化技術は収束イオンビーム (FIB : Focused Ion Beam) を用いた試料加工技術と三次元画像再構築技術に基づくものです。
三次元画像 (3D-SEM) の観察法
走査電子顕微鏡像の三次元画像化 (3D-SEM) では、FIBにより特定部位を連続的に加工しながら、順次その断面のSEM像を蓄積します。蓄積された断面像から三次元画像を再構築します。再構築された像を画像処理することにより任意の断面を観察できるとともに、寸法や体積などの各種パラメータを抽出することが可能です。
FIB加工では、イオン源に液体金属ガリウムを用い加速電圧を30kVとしました。また、SEM観察では、電子銃をショットキー型電界放射、加速電圧を2kVとしました。
2) 測定結果
図2にFIB/SEM複合装置により得られた連続画像を立体的に再構築した像を示します。また、図3に図2からCaCO3を抽出した画像処理像を示します。
以下では、アイゾッド衝撃強度と、画像処理から得られたCaCO3分散粒子径、体積分率、粒子間距離との関係について検討します。
図4にアイゾッド衝撃強度のCaCO3分散粒子径の依存性を示しました。衝撃強度と分散粒子径の関係は線形ではなく、粒子径約150nmで衝撃強度にピークが観測されました。
図5に画像処理により求められたCaCO3の体積分率と衝撃強度の関係を示します。体積分率の増加に伴い、衝撃強度が非線形的に増加する傾向が認められました。この傾向はCaCO3の体積と衝撃強度の間に単純な加成則が成立しないことを示唆しています。
今後、さらに短い粒子間距離における衝撃特性の変化を検討する余地はありますが、粒子間距離が衝撃特性に直接影響する可能性が明らかになりました。
以上のように、FIBで得られたスライス像を再構築および画像処理をおこなうことにより、数十nm~μmレベルの三次元的形態の可視化並びに、それを基に定量的な情報も用いて解析を行うことが可能となりました。