従来、収束イオンビーム (FIB) 加工した試料にはダメージ層が存在するため、FIB加工は高分解能観察や表面観察などには不向きとされていました。このたび当社では「低加速仕上げ法」を開発し、これにより高分解能TEMや後方散乱電子回折 (EBSP) の前処理としてFIB加工の適用が可能になりました。
「低加速仕上げ法」とは、FIB加工時に生じる試料表面のダメージ層を、イオンビームの加速を2kVまで下げて加工を行うことで、できるだけ薄くするという方法です。
FIB加工によるダメージ層
通常、FIB加工には高エネルギーのGaイオンを用いるので、図1のようにビーム照射された部位はイオンの衝突により非晶質になり、いわゆるダメージ層が生じます。特に試料の側面にダメージ層が形成されます。
低加速仕上げ法によるダメージ層の低減
図2に示すように、Si単結晶を通常加工 (30kV) した場合、試料の側面には約20nmのダメージ層が形成されます。この試料をTEM観察した場合、両側面の約40nmのダメージ層を透過して観察するため、図2 (b) のように、鮮明な格子像を観察するのは難しくなります。
そこで、当社ではFIBのイオンビーム加速電圧を下げて仕上げを行うことにより、ダメージ層をできるだけ薄くする方法を確立しました。図3 (a) のように、「低加速仕上げ法」により試料側面のダメージ層は5nmまで低減し、格子像も図3 (b) のように鮮明に得ることができました。
*Focused Ion Beam:加速されたイオンビームを静電レンズ系により収束して、加工や観察を行う装置。MONTHLY Vol.8 No.5 (1999.5) 参照。