TEMを用いてリチウムイオン二次電池の負極材料の断面形態観察ができます。
TEMで負極のどんなことが分かるの?
TEM(透過電子顕微鏡)を用いた形態観察から、カーボン系負極材料の活物質表面に形成された被膜の形状や膜厚が分かります。また、内部からは層状構造や隙間の様子なども分かります。
活物質表面の断面観察から被膜の様子を観察することができます。
写真1(a)に初期品、写真1(b)に300cyc品負極放電状態の断面TEM観察結果を示します。300cyc品における被膜の膜厚は約50nmと、初期品に比べ僅かに増加している様子が観測されました。(膜厚は次に示すEDX分析を併用して見積もっています。)さらに、300cyc品では被膜に空孔部分が観察されました(写真中矢印)。
TEM-EDX分析から何が分かるの?
活物質表面における組成分布を調べることができます。また、特にサイクル品に関しては、正極由来の遷移金属の分布も調べることができます。
TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光分析)によって、ナノ領域(ビーム径数nm)における組成分析を行うことができます。
図2は、300cyc品について活物質の表面から内部方向へEDXによる線分析を行った結果です。活物質表面の被膜(膜厚約50nm)領域からC,O,F,Pが検出されました。そして、O,F,Pは、被膜表面近傍に多く存在し、活物質側へ行くにしたがい減少している傾向がみられました。
さらに、図2に示すように、300cyc品の活物質内部の隙間近傍で、正極由来と思われる遷移金属(Mn)が確認されました。
TEM観察用の試料作製にはどのような手法があるの?
懸濁法、ウルトラミクロトーム法、イオンミリング法、FIB法などがあります。活物質表面や内部の形態を観察をする場合はFIB加工が有効です。
TEM観察は、電子線を数百kVに加速して試料に照射し、透過した電子を磁界型レンズで拡大し観察します。鮮明な像を得るためには、試料の膜厚は100nm以下まで薄くしなければいけません。
その試料作製法には、図3のように、懸濁法、ウルトラミクロトーム法、イオンミリング法、FIB(集束イオンビーム)法などがあります。観察目的や対象材料によって前処理技術は大きく異なってきます。
特に、大気非暴露で分析を行う場合は、不活性雰囲気のグローブボックスと雰囲気遮断ホルダーを併用した前処理方法が必要です。
なぜ大気非暴露での分析が必要なの?
Li化合物は、一般に反応性が高いため、大気中の酸素などと容易に反応してしまい、形状や組成が大きく変化してしまいます。従って、大気非暴露での試料前処理や観察・分析が必要です(図4)。
初期品負極の充電状態の断面SEM観察結果を写真2に示します。写真2(a)は大気非暴露で加工した断面、写真2(b)はそれを大気暴露した後の断面観察結果です。
暴露後の活物質断面写真から試料表面に析出物が観測されました。また、電極内に亀裂が入っている様子も見られます。電極層の膜厚は、大気暴露することによって1割強増加していることがわかりました。
これらの結果は、大気暴露により負極材料が変質したためと考えられます。大気非暴露での観察が必要不可欠であることがわかります。