ICP-AESを用いてリチウムイオン二次電池の正極活物質成分の定量分析ができます。
なぜ正極活物質成分の定量分析が必要なのか?
正極に含まれる遷移金属の比率が電池の性能に影響し、不純物の存在が劣化を促進させるからです。
リチウムイオン二次電池の正極は、容量やコストの優位性から、Mn、Co、Niの酸化物から構成される三元系電極がよく利用されます。低コストで高い容量を持つ正極を開発するためには、Liを含むこれらの組成と性能との相関を把握することが重要となります。また、正極に不純物が含まれると劣化が促進されるため、不純物の濃度を把握することも重要です。
どうやって活物質成分の定量分析をしているのか?
試料を酸やアルカリで分解(水溶液化)して、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)と呼ばれる方法で定量分析を行います。
ICP-AESは、酸やアルカリによって溶液化した試料を8000℃以上のアルゴンプラズマ炎中に噴霧することにより定量分析を行う方法です。試料に含まれる各元素はこの炎のエネルギーにより励起し、励起された元素が基底状態に戻る際に、得たエネルギーを光として放出します。この光は元素により固有の波長で発光し、発光強度は濃度に比例することから、これら(発光した光の波長と強度)を測定することより様々な元素の定量分析が可能となります。
定量分析における正確さを高めるためには、試料とできるだけ近い組成を持つ標準を複数用意する必要があります。本方法は水溶液を扱うため、固体とは異なり、任意の組成、濃度の標準を簡単に作成することができます。また、試料が水溶液なので、完全に均質なものを分析することとなります。このため固体を直接分析する方法と比較して、高精度な定量分析が可能となります。
具体的に、ICP-AESでなにがわかるの?
正極活物質に含まれる成分、および不純物の元素の量がわかります。
図1に初期品の充電前後における三元系正極材料に含まれる成分の定量分析結果を示します。充電することにより正極のリチウムが負極に移動するため、充電状態では正極中のリチウムの濃度が低くなることがわかります。また、劣化が進むと放電してもリチウムが正極に戻れなくなり、放電状態における正極中のリチウム量が減ることがあります。しかし、本試料の300cyc品は初期品のリチウム量とほぼ同量ですので、ほとんど劣化していないと推定できます。
また、本方法で正極中における不純物の量も測定することができます。図2に正極中における鉄成分を分析したときのピークプロファイルを示します。試料Aでは不検出であるのに対し、試料Bでは100μg/g相当の鉄が検出されました。鉄は導通するために、これが存在するとショートの原因となり兼ねません。このように不純物量を把握することは、不具合が起こらない製品を作るといった観点からも重要です。