材料の分析でよく用いられる手法について、その原理、構成、特徴、分析できる内容などを「わかりやすく解説」します。ここでは物質の硬さや力学物性をナノメートルスケールで測るナノインデンテーション法について解説します。物質の硬さやなどの力学物性をナノメートルスケールで測れます。
ナノインデンテーション法:NI (Nano Indentation)
NI の仕組み
NIは、物質の硬さや弾性率*1、降伏応力*2などの力学物性をナノメートルスケールで測る技術です。ステージの上に置かれた試料にダイヤモンド圧子を押し込み、荷重 (押し込む強さ) と変位 (押し込む深さ) を測定し、得られた荷重-変位曲線から力学物性を算出します。ナノインデンターは、ダイヤモンド圧子とその制御・測定値の検出を行うトランスデューサおよびコントローラ、オペレーションのためパソコンから構成されています。
鋭角圧子と球形圧子
NIでは、使用するダイヤモンド圧子の形状によって、押し込む際の変形挙動が異なります。大きく分けると、一般的に用いられる先端部が尖った鋭角圧子と丸くなっている球形圧子の2種類があります。鋭角圧子は硬さと弾性率を、球形圧子は降伏応力と弾性率を調べるのに適しています。
鋭角圧子の押し込みでは、弾性変形と塑性変形が同時に生じます。押し込んだ際の荷重と変位の関係から、外部から力を加えた時の材料の持つ抵抗力 (硬さ) を求めることができます。硬さは弾性変形と塑性変形の両方を考慮しているため、直感的な評価指標といえます。また、除荷時には弾性回復が生じるため、この挙動から塑性変形後の弾性率を求めることができます。
鋭角圧子とは異なり球形圧子の押し込みでは、圧入の初期は弾性変形のみが生じます。この弾性変形の挙動を解析することによって、弾性率を求めることができます。また、深く押し込むと、弾性限界を超えて、弾性変形と共に塑性変形を生じ始めます。この塑性変形を開始する点から降伏応力を求めることができます。降伏応力は加工性能の評価指標として非常に有用です。
環境制御と組み合わせでさまざまな条件の試験が可能です
インデンテーション法には、ナノ薄膜材料やナノ複合材料など構造体を計測できる、マクロ領域からマイクロ領域、ナノ領域まで様々なスケールがあります。最も微小な領域をカバーするNIは、荷重1μN~10mN、変位1nm~4μmの範囲で試料の力学物性を評価する手法です。分解能は荷重0.1μN,変位0.1nmとなっています。NIでは薄膜評価のニーズが多く、膜厚50nm以上、位置指定精度30nmでの測定が可能です。
NIと環境制御の技術を組み合わせることで、実際に材料が用いられる状況での試験や、力学物性の環境依存性を評価することが可能です。ただし単純に周囲の環境を制御するだけでは、環境制御によるドリフト (荷重・変位がずれてくる現象) などが生じ、荷重-変位曲線が一定せず定量評価は困難です。再現性の良い試験を行うには、温度、湿度、液中、雰囲気 (大気・真空・ガス) などの環境を制御することが必要です。